僕が彼女を見たのはマカティの大きなカラオケバーだった。
「指名は?」
とスタッフに聞かれたけど数十人の中から女性を選ぶことなんて恥ずかしくて出来なかったから
「細い女性をお願いします」
とお願いしただけだった。呼ばれて来たのはライザと言う女の子。九州に2回言ってたらしい。髪の毛が肩までの正真正銘の美人だった。
僕はもうここに来ることも無いかも知れない、でも彼女のことを深く知りたかった。異国の地のお店と言うこともあったんだろうか僕は日本では飲まない量の焼酎を飲んだ。とてもライザが隣に居て楽しいと思えた。
中央のステージでは他のお客さんがフィリピーナと松田聖子の「スウィートメモリーズ」を歌い始めた。ちらほらとタレントに手を引かれてステージで踊りだすお客さん達。後ろの方でそのチークする人たちを見ているとライザは僕の手を黙って引っ張りステージでチークを踊り始めた。
日本だったら絶対に恥ずかしくて踊れないけど黙ってライザの肩を抱いて踊り始めた。とても彼女からはいい香りがした。酔っていて足元がおぼつかない。
「ねえ、一つ質問良いかな?」
ライザのことを知りたかった。誰にも聞こえない様に耳元で囁く。
「何ですか?いいよ」
「May minamahal ka na ba? (好きな人はいますか?)」
一瞬だったが間違いなくチークを踊るライザの動きは止まった。酔っていた僕にもそれは解るほどだった。しばらくチークを踊り続けた後、
「私には忘れられない人がいます」
「そうなんだ」
それ以降チークする間、二人は言葉は交わさなかった。
席に戻ってから彼女の好きな人の話を聞いてみた。どうやら数日前に日本にいたボーイフレンドと別れたらしい。
「きっとね、時間が経てばボーイフレンドはあなたの大事さに気づくはずだよ。だから元気出しなよ」
明らかにチーク前と表情が違うライザを僕なりに励ました。タレントではなく一人の女の子だった。
お店を出る最後にライザにメモを渡した。
「今日は会えて楽しかった。あなたには好きな人がいる。だけど僕はあなたに一目惚れしたよ。もし良ければテキストしてね」
電話番号付きのメモ。ライザにはジョセルに振られた事は話したけどライラと言う新しい彼女がいるんだって話せなかった。
確かにそのお店にいた時僕はライザの事が好きになっていた。
それから一週間、ライザから何のメールも無い。気にはなっていたが僕にはライラと言う彼女と毎日過ごせてとても幸せだった。あと二日で日本に帰らなければならないから少しでもライラと一緒にいたかった。
少しでもライラを忘れたくないと思う気持ちから帰る日が近づくにつれてライラとベッドにいる事が多くなった。ライラに顔を埋めている時携帯が鳴った。ライザからだった。
「どうした?イカウの携帯鳴ってるディバ?」
「ううん、いい。しつこいバクラからの電話だから」
またライラに顔を埋めた。
後にも先にもライザから電話があったのはそれっきりだった。すぐにかけ直しても応答は無かった。
帰国後、ライザにメールも電話もした。でも返事は無い。
彼女が僕に何を電話で伝えたかったのかそれはわからない。
あの夜の僅かな時間だけ僕はライザが好きだった。
きっと彼女は電話で
「彼と戻ったからゴメンナサイ」
と言いたかったんだろうと思う。
ライザの写真も無いし、僕の記憶からも日に日にライザの顔なんて忘れていってる。
でも、
「May minamahal ka na ba? メイ ミナマハル カ ナ バ?(好きな人はいますか?)」
という言葉を口にする度、耳にする度に僕はライザという女性に少しの間恋をした事を思い出す。
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