誰も振り向かない夜

どうも、アンへレスに忘れ物をしたbaliwです。

 

ああ、忘れものしちゃったよ。

 

なんて思いながらあっちで買ったミックスナッツの徳用をつまみつつ何を忘れたのか思いふける。

 

 

 

「アナタ、さっきから豆ばっかり食べてるわね」

 

日本語が挨拶程度しかできない彼女が英語交じりのタガログ語で嬉しそうに話す。

何が嬉しいんだろう。

 

帰ろうと思ったところで客を捕まえたから?

ビキニから着替えて店の前に出て雑談していた所で彼女は僕に出会う。

 

「ホイ!昨日待ってたのに」

 

そんな感じで通りを一人で歩いてた僕を呼ぶ。

 

「ああ、昨日はごめんね。疲れて寝ちゃったよ。一人で」

「ホントかなぁ~」

 

ニヤニヤしながらも上目使いで僕に体を摺り寄せる。

ホントに人懐っこいフィリピーナだな。

 

ましてや日本人が好きそうな黒髪の小柄な体型。

この店では3番目のチョイスとして最初は決めていたものの、

段々と彼女の順位が上がっていく。

 

昨夜も指名もしてないけど隣で嬉しそうに日本から持ち込んだガムと奢りのサンミゲルライトを飲みながら隣で初のゴーゴーの狂気に飲み込まれる僕に体をこすりつけてきた。

 

階下を見下ろしてる僕が面白いんだろうね。

 

 

時間は二時を回っていた。

 

「ね、今日は僕と一緒にいれないかな?」

「バーファインのお金は持ってるの?」

「大丈夫。それこそ君こそ僕で良いのかい?日本人だし、若くも無いよ。腹だってこんなに出ちゃってる。少し頭も薄いし、チンコも小さい。そんな男と一晩メイクラブしてくれるのかい」

「何言ってんのよ!じゃ、ママに言ってくるからちょっと待ってて」

 

ホントにすぐに彼女はママに言ってきたらしく、僕の右手を握ってきた。

 

「gutom ka ba?」

 

聞いた彼女は笑顔になった。

笑ってたと思ってたのにもっと良い表情になった。

 

手を引かれたままに連れてこられた韓国料理店のテーブルに座る。

 

「いいよ。好きなの食べなよ。僕はイイから」

「そんなの食べれる訳ないじゃん。一緒に食べようよ」

 

僕の注文したサンミゲルライトとともに彼女はそれのアップルテイストと何かを早口で頼む。

 

「ねぇ、ごめんよ昨日は。それに君の名をハッキリ覚えてないんだ」

「シェリル。今度は覚えとくようにね」

「でも君ってアブノーマルだよね。僕には解かる」

 

右手を筒状にしてそこから彼女を覗き込む。

 

「何でよぉ。何でそう思うの?」

「だって君の店にはもっとクールなアメリカーノもリッチなチャイニーズも居たじゃない。メガネの腹出てる日本人を選ぶなんて君はちょっとクレイジーだよ」

 

シェリルが頬を膨らましながら少し怒って何かを言ってるけど僕には解からない。

そんな中、キムチやらチヂミなんかの前菜的な小皿と二人のビールが置かれる。

「も一回言うけど僕は空腹じゃない」

「じゃ、アーンしてよ」

 

彼女が冷え切ったチヂミの様なものを僕の口に入れる。

 

 

「病気なんだ、僕」

「なんで遊んでるのよ病気なのにさ」

「だって恋の病だから。baliw na baliw ako sayo,honey」

 

二人でケラケラと笑う。

久しぶりだな、女性とお酒で楽しいと思えるの。

 

次に運ばれた鉄板上の豚肉を彼女はコチュジャン、ごま油をつけて萎れたレタスで巻いて嬉しそうに食べる。

 

「アナタ、さっきから豆ばっかり食べてるわね」

 

甘ったるい落花生の煮物の様なものをつまんでる僕を何故か見下すかのように笑う。

 

「いい、baliw。これはね、フィリピンでは『マニ』っていうのよ。マニ」

「マ?ニ?」

 

満足そうに無言で頷き次の萎れたレタスを手に取る。

 

こんな女と結婚したかった。

(つづく)

 

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