ライラとの出会い 1

6月26日

「あんた、まあ最初やからせいぜい騙されんようにね。特に何か有ればいつでも電話くれたらいいし。ほな、彼女と楽しんできて。」
「ありがとうございます。もし困ったら連絡します。」
海瀬は返答の「もし」の中には少々の英語が話せること、彼女であるジョセルへの会いたさに会社に無理矢理休みをとって一人でマニラまで来た行動力から困らないであろうという自信が有った。
関空からの機内で知り合ったシマキとよく目が合ってどちらからともなく話を始めた。60は過ぎているであろう白髪交じりのオールバックの男。会社社長で毎月フィリピンに来ているとパスポートにぎっしり詰まったスタンプを見せてくれた。成金の持つ驕りなどない紳士であった。シマキはジョセルについて幾つかの質問をした。どこに住んでるんだ?家族は仕事しているのか?もうセックスはしたのか?
シマキは彼女がもう迎えに来てるからと入国審査を一緒に受けた後、別れを告げすぐにいなくなってしまった。

「やばい。冗談抜きで外人ばかりや…。ああ、なんかあの職員コッチ見てるよ。トイレに逃げよう」
「どうやって外に出たらいいんやろ?ああ!俺まだ荷物もらってない。」
荷物流れるコンベアを間違えていて振り返り後方のコンベアを見ると赤いスーツケースが一つだけ流れていた。何を思ったのかテンガロンハットを被っていた為に余計に目立つことになる。
どうにか外に出るとアイロンをあてた時の様な熱気を帯びた空気が全身を覆う。それにうるさい。鉄柵の外側は褐色の人だかり。内側はポリスマンと黄色いジャンパーを着た男達がタバコを吸って談笑してる。海瀬は急にタバコが吸いたくなりタバコに火を点け迎えに来るはずのウェンデルに電話した。
「海瀬だけど。今どこ?」
「オオ、海瀬。今ケソンシティからエアポート行ってるよ。もうちょっと待ってて」
これがフィリピンスタイルなんかな?そう思い外を見ると夕立のように強い雨が降ってる。誰もいない灰皿を見つけるとスーツケースに腰をかけて待つことにした。

もう一時間くらい経ったろうか、海瀬の頭の中にジェリー藤尾の『遠くへ行きたい』がリフレインしだし始めてた。
「ホンマにシャレにならんて。異国の地で一人なんて。」
予約したホテルも知らない、翌朝のロハス行きの飛行機までどうすればいいのか?
その時携帯が鳴った。ウェンデルからだ。
「海瀬!どこにいるか?ずっと探してる。」
携帯を持ったまま動き出す。
「海瀬、ジョリビーのあるでしょ?」
あちこち見て探す。コーヒーショップがあるだけでジョリビーは無い。
もしかしてコイツ空港間違えたな…
その時、
「アナタ、日本人?」
とポリスマンが笑顔で話し掛けてきた。

続く

青春歌年鑑 1962

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